Think Big, Act Quick. / by Yuki Takai

第3回Samurai Venture Summitに参加してきました。
自分自身は今はスタートアップをしているわけではないけど、行ってよかった。
示唆に富む言葉やいい刺激がたくさんあったので、印象に残った部分をピックアップして紹介します。

 

「世界を狙う起業家に必要な心構えとは?〜season2〜」孫泰蔵氏

まずは孫泰蔵氏(@TaizoSon)のセッションで幕開け。
トーク自体も面白かったが、結果的にSVS全体を象徴する内容だったと思う。

起業家は楽観的でないとできないが、理性がある以上本当に楽観的になるのはとても難しい。
本当に楽観的になるためには、あらゆることを考え抜いてとことん突き詰めるしかない。
考え尽くして努力し尽くして、初めて「ここまでやったのだからどうなっても後悔はない」
という楽観的な境地に辿りつける。
ある意味、人を説得する方が簡単。自分の方がごまかせない。

考え抜いて突き詰める過程で、無駄とか迷いが削ぎ落とされていく。
そうしてアイデアや思いを「志」まで純化した強さがアントレプレナーには求められると理解した。

「世界」を狙うためには何が必要か。
まずは日本で成功すること? まずは身近な人に喜んでもらうこと?
それも正しいけど、まずは何よりも「英語」。最初から英語でサービスを作ることが大事。
そうすると全世界の人が使う前提になって思考回路が変わってくる。
「まずは日本で」というのが一種の言い訳・逃げになってはいけない。
そういう思考回路だと、結局小さくまとまって終わってしまうケースが多い。

ぐさっとくる。「身近な大切な人を喜ばせられずに世界でなんて受け入れられるはずがない」なんてカッコイイこと言ってしまいそうになるけど、エクスキューズだと言われると言葉に詰まる。
そんな居心地の悪さに明快なアンサー。

“Lean Startups”の時代
クラウドサービスが広がってサーバなどのインフラ保有コストが劇的に下がったことと、
twitter、facebookなどのソーシャルメディアのインフラ化によって、
バイラルに広がる素地が整ってきたことで、少数・少額でスタートアップできるようになった。
アメリカの有力エンジェル達はビジネスモデルは見ない。
経営者の人柄とサービスのプロトタイプだけを見て投資するかどうかを判断する。

スタートアップの急増はただのバブルではなく理由がある。
体力もブランドもないベンチャーの最大関門であるランニングコストとプロモーションが今までと比べれば限りなく無料に近くなっているのはかなりハードルを下げていると思う。

ちょっとずれるけど、多くのサービスがAPI公開されてクラウド上に漂っている今、その「フラグメント×フラグメント×エッセンス」で無限のクリエイションの可能性があると思う。
そんなフラグメント化する世界では、誰でもオープンソースでサービスの断片を利用できる以上、エッセンスの価値が最重要になるはず。
エンジェル達が見ているのはプレゼン資料ではなくその部分なんだと思った。

世界で成功する起業家になるために大切な5つのポイント
1. Think Big
2. Different
3. Convincing
4. Simple
5. Logical
無理かなと思っても志のあるものを考えろ。
シリコンバレーと比べて日本が能力的に劣っているとは全く思わない。
差があるとすればそこだけの差。

世界を狙わなければ世界で戦えない。
説得力がなければビッグインパクトは起こせない。
コピー不可で、シンプルで、論理的なもの。
大切なエッセンスはこの5項目に凝縮されているが、
これこそまさに言うは易く行なうは難し。

“5-Year-Lasting Service”
5年後の常識になるサービスを「今」作るとビッグインパクトになる。
Gmailはメールサービスでは最後発だったが、当時では圧倒的な2GBという容量をもって一気にシェアを獲得していった。
ただ今となっては2GBという容量に驚きはない。

逆に言えばそれだけのスピードが求められるし、それだけ先を走っていないとビッグインパクトは起こせない。

サグラダ・ファミリアは世界で唯一、工事現場を見せて入場料を取っている観光地。
それなのに観光客はみんな感動して喜んでお金を払っている。なぜか?
ガウディはそれぞれの塔に設置する鐘の音階を決め、各鐘の共鳴具合を考えて鳴らす曲まで作曲し、
完成した暁にはサグラダ・ファミリア全体が使徒と神の降臨を表す楽器となるよう設計した。
観光客はそのガウディの構想の壮大さに感動してお金を払っている。

ガウディの夢をつむぐ手助けをしたい、ガウディの夢に「参加」し当事者になりたい、という思いがお金を払うモチベーションになっているサグラダ・ファミリアは、いわばソーシャルやベンチャーの理想形。
応援することも体験、参加することも体験。
なんでもデジタルでコピー可能な世界で、コピー不能な「体験」の価値は相対的に高まっているから、「応援したい気持ちにお金を払う」ってモチベーションが生まれる。
これがソーシャルコマースの原点なのかもしれない。

 

「ポジティブウェブ2011」Grow! カズワタベ氏、ハイパーインターネッツ 家入氏・石田氏、Labit.Inc 鶴田氏

次に参加したのはこのセッション。「ポジティブウェブ」とは、
“全世界の人がそのサービスのユーザだと仮定したとき、世界が良くなると思うもの”。

それを踏まえて、今後の目指すべきWeb像を語るという、なかなか答えのないこの難しいお題に対してどういう言葉が出てくるのか。個人的にすごく共感・注目している4人だったので楽しみだった。
まずは各サービスとパネラーの紹介。

Grow!
ソーシャル・パトロン・プラットフォーム。
クリエイターが自分のサイトやコンテンツに「Grow!」ボタンを設置し、それがクリックされると1クリック=1$がユーザからクリエイターに支払われる仕組み。また、ユーザ間のGrow!はtwitterやfacebookで共有・拡散されるので、それがまたクリエイターを応援する設計になっている。

Grow!のやりたいこと
1. 創造的なモノへの、「社会全体からの持続的投資」
2. クリエイティブの、「サステナビリティの向上」
3. 消費者による、「能動的な価格設定」機会の創出
4. 「人と結びついた感動」の共有
5. インターネットを活用した「パトロンのソーシャル化」

CCOをつとめるカズワタベさん(@kazzwatabe)が今回のモデレーター。

CAMPFIRE
マイクロ・パトロン・プラットフォーム。
クリエイターが新しくプロジェクトを立ち上げる際に、ユーザ=パトロンから少額ずつ支援を募って資金を得られるサービス。目標金額に達したら、クリエイターはパトロンにそのリターンとしてモノや体験を返すことで、金銭的な授受だけでなく、ユーザはそのプロジェクトへの参加感を、クリエイターはあらかじめファンを得ることができる仕組み。
indieGoGoとかkickstarterのローカライズ版だと思えば分かりやすい。 ※参照

パネラーとして家入さん(@hbkr)と石田さん(@kohex)が登壇。

Pray for Japan
慶応義塾大学SFC生の鶴田浩之さん(@mocchicc)が作ったサイト。
#prayforjapanのハッシュタグでtwitterに流れてくるメッセージをまとめている。
4/25に講談社から書籍としても発売された。

今回の話には特別登場していないけど、鶴田さんのブログの「16歳で起業して4年間やってきて思うこと」という有名なエントリも非常に示唆に富む内容なのでぜひ。
※4/1にLabit.Incを設立したそうなので、こちらから新たに生まれるサービスにも注目。

セッションの内容は、「No tweetでお願いします」(by 家入さん)というものがあったり非常に自由な進行だったので、ここでは印象に残った部分を抜粋。

「例えばTogetterも、便利だけど使い方・まとめ方によっては炎上を引き起こしたりネガティブなものになり得る。」
「実は、この題目に対する答えはもうすでに自分の中で出てしまっていて、結局ネットは人に帰属するからその使い方次第だなと。」
「瓦礫の写真とかもたくさんハッシュタグで流れてくるけれど、Pray for Japanのサイトの運営上のポリシーとしてそういうものは流さないようにしている。」
「そのデザイン、行間、余白もふくめた全体的なコーディネート=キュレーションがPray for Japanをポジティブなものにしている。」
「CAMPFIREも家入さんと石田さんのチェックを経てからプロジェクトとしてアップされるので、悪意のあるプロジェクトが勝手に資金を集めることにはならないし、Grow!も基本的にはユーザの『いいね!』という気持ちに基づいてGrow!されるので、悪意が働きづらい仕組みになっている。そういう意味ではCAMPFIREもGrow!も一種のキュレーションメディア。」

結局、Webがポジティブなものになるかどうかは、誰がどうキュレーションするかに担保されるということ。
そう聞くと、そんなの当たり前じゃん、という気もするけれど、ソーシャルの時代に今改めてそれを認識するのは結構大事なことだと思う。
使い方・使われ方によっては誰かを傷つけたりする可能性があるというWebの大前提を意識した上で、善意がスパイラルするような仕組みを設計できたサービスだけが、最後までユーザに使われて残っていく気がする。

題目とは少しずれるのであとがき的に書くけど、Pray for Japanの何がすごいかというと、震災発生からわずか2時間で作ったというところ。
もちろん、その後アップデートを続けて今の形になっているのだけれど、きっとそのタイミング・そのスピード感でリリースされていなければこれだけ多くの人の目に触れて話題にはなっていないと思う。

また、「CAMPFIREは新たに生まれるコンテンツを支援するサービス、Grow!はすでにあるコンテンツを支援するサービス」というくだりも頭に残った。
もはやある意味「すでに何でもある時代」、新たなクリエイションの多くはMADに代表されるようにコンテンツとコンテンツのかけ合わせというか、見せ方・編集の仕方次第で付加価値を付けるものになってくると思う。そこでユーザがコンテンツを量産できるような、クリエイションの敷居を下げるようなサービスができれば、これらと絡んでもっとシナジー生めるのではと思った。やりたい。

 

「ソーシャルコマースの現状と今後の展望」Nagisa 横山氏、Flutter Scape 柿山氏、Whyteboard 碇氏、Livlis 川崎氏

これも超楽しみだったセッション。
モデレーターはNagisaの横山さん(@Y_Yokoyama)。ソーシャルコマースサービスの立ち上げ準備中とのこと。

FLUTTER SCAPE
柿山さん(@hirrro)が上智大学卒業後に立ち上げたFLUTTER SCAPEは、世界中の人たちがそれぞれ「好きなもの」の写真を共有してつながるサービス。
それがそのままwish listになっていて、欲しい人に欲しいものを売ることができる。
いわば外国の人たちがそのままキュレーターとなって「Cool!」だと思うものを紹介してくれる仕組み。「日本の日常は海外に売れる」。
参照

面白いのは、wish listというカタログ=コンテンツはユーザのソーシャルグラフによって勝手に生成されていくところ。あとはそれで顕在化したニーズに対してモノを仕入れて売ればいい。
売る側からも買う側からもハッピーに手数料を取れるので、在庫も持たずに粗利率20%とのこと。

WhiteboardF-auction
碇さん(@ikalii)は大学在学中に無料の傘シェアリングサービスSHIBUKASAを立ち上げた後、今は新たにfacebook上でのオークションサービスF-auctionを立ち上げ中。

facebook上のコマースは「F-commerce」と呼ばれる。
F-auctionは、facebookアプリ上でPayPalを使ってユーザの「売りたい」「買いたい」をマッチングするシンプルなサービスだけど、facebookの実名性・信頼性から生まれるコミュニケーションやストーリーがオークションの新たな価値になる。

Auction 2.0
1. Real name
2. World wide
3. Taste graph, Interest gragh

livlis
ご存知Livlisは、元はてなの川崎さん(@yukawasa)が立ち上げた、twitterを通じてモノをあげたりもらったりできるサービス。

「個人がモノを通じて人と出会うサービスにしたい。」
「人+位置情報=ヒトトナリ」
「3年後には、ソーシャル×ローカル×アジア×スマートフォンがカギになる。」

これから目指す姿としては、スマートフォンの位置情報を使って、例えば「半径何m以内で買える物、買いたい人と売りたい人をマッチングする」ようなサービスとのこと。

あと、非常に興味深かったのが品物の受け渡しのエピソード。

Livlisでは「郵送」と「手渡し」とが選択できるが、「手渡し」は最初冗談半分で作った。
だけど実際に蓋を開けてみればほとんどの人が手渡しで品物の受け渡しをしている。
ある女性ユーザいわく、「郵便番号と住所を公開してストーカーされるリスクより、駅とか衆人環視の中で刺されるリスクの方がずっと低い」。

実際にそういうリスク面の問題もあるだろうし、ソーシャル経由だとお互いの信頼に基づいた取引だからということも要因としてあると思う。ソーシャルグラフでつながる人とリアルで会うことへの興味もあるかもしれない。個人的にも引越しの際にtwitter経由で直接不用品をゆずり渡した経験があるけど、いずれにしても、「郵送よりも手渡し」というのがソーシャル時代の気分なんだと思う。

また、全体のセッションから出てきた印象に残った言葉をピックアップ。

「トランザクションを増やす設計より、リアクションを増やす設計ができればサービスとして勝てる。コミュニケーションが生まれなければ、結局売れない。」
「だんだん値段でモノを買わなくなってくる。友人がいいと言っているもの、共感できるものなら買うようになる。」
「スーパーの試食ってすごいと思うんですよね。買わざるを得ない空気出てるじゃないですか。あればおそらく高いCVRを誇っているはず。あのおばちゃんの感じがWebで実現できればそれこそソーシャルコマースですよ。」

笑いも起きてたけど、割と本質かもしれない。ソーシャルコマースの理想は試食のおばちゃんですよ。

 

「facebookを活用して取り組むべきビジネス・取り組みにくいビジネスとは?」ブレークスルーパートナーズ 赤羽氏

見た中でもうひとつまとめとして触れておきたいのがブレークスルーパートナーズ赤羽さん(@YujiAkaba)のお話。

ソーシャルメディアの最新事例などのプレゼン資料は全部下記SlideShareで公開されてるので詳細は割愛。

『Facebook、twitter等ソーシャルプラットフォームを活用したサービス立ち上げ』

・facebook、twitterはつなげるだけじゃダメ。もはやフル活用が大前提
・すべての既存サービスがソーシャル化でWebに置き換えられていく中にビジネスチャンスがある
・自分がやらなければすぐに他の誰かがやってしまう
・最初から世界が対象。英語は超重要。チームにひとりはネイティブ並みのメンバーを
・経験より、熱意・アグレッシブさ・感度・人への好奇心・細部へのこだわりがカギ
・2〜3ヶ月でサービスリリースするスピード感とフットワークが必要
マネタイズを考えて事業計画を考えるのは重要ではなくなってくる。
それよりスピード。計画を立てる間に、本当にいいサービスをさっさと作れ。
いいサービスといっても、放っておいてもリアルで口コミが起こるくらいすごいサービスでなければ成功しない。
ただ、スピード感をもって本当にすごいサービスが作れればお金は後からいくらでもついてくる。

夢もチャンスもいくらでもある。でも、「本当にすごいサービスを誰よりも早く」作れなければ成功できない。
ソーシャルの時代ではユーザの反応もダイレクトだし、合わなければすぐに使われなくなる。しかも競合もあっという間に乱立してくる。今はもしかしたら本当にドライで残酷な時代なのかもしれない。
でももう一度言うけど、夢もチャンスもいくらでもある。大事。

 

※全体については、他にもいくつかまとめてくれている方がいるのであわせてどうぞ。
「孫泰蔵さんの「世界を狙う起業家に必要な心構えとは?」10のまとめ」by イセオサムさん(@ossam
「第3回 Samurai Venture Summit 活気とシャウトで充満」 by 本荘修二さん(@shonjo
【写真レポート】第3回Samurai Venture Summit【本田】
Togetter「SVS3」

最後に、上記以外にも気になったサービスを紹介。

 

■WishScope
Zawattからローンチ予定のサービス。
CAMPFIREのプロジェクトが個人のwish listに置き換わるイメージ。
欲しい物を公開して、例えば「買ってくれたら生写真3枚あげます」みたいに支援者を募る。
このスキームはいろいろ応用効きそうなので今後増えてくるかも。

getstage
ミュージシャンやダンサーなどのアーティストと仕事をつなげるプラットフォームサービス。
アーティストは月額費用525円でプロモーションページに登録して、募集されているステージに応募できる。募集する側はギャラ設定をして案件掲載する。
ありそうでなかったサービスだけど、こういうアーティストやクリエイションの裾野を広げて支援するサービスは個人的に共感するので応援したい。

LikeaLittle
アメリカの大学生の間で絶賛拡大中の「ソーシャル出会い系」サービス。
学校ごとに掲示板があって、そこに見かけた気になる異性の特徴を書きこんでいく。
面白いのはそれが「匿名」で行われるということ。
「この書き込みってもしかして俺のことかな…?誰か気にしてくれてる女の子がいるのかも…!」
なんて、シャイな日本の大学生にもめっちゃ流行りそう。 ※参照

 

いろんな人と話せたし本当にいい刺激を受けた。
たくさんのスタートアップサービスがあって、正直、その中にはピンとこなかったりマネタイズどうするんだろうって思うものもあったりもしたけど、誰もが誇らしげに、楽しそうに自分のサービスを語る姿がすごく印象的だった。
セッションの中にも何度も「マネタイズよりもスピード、そしてコンセプトの壮大さ」という言葉が出てきたけど、誰よりもやっぱり自分が「このサービスが成功すればこんないい世界になる!」って夢を信じて語ることがファン・支援者を増やす欠かせない第一歩なんだなと改めて。

「語れる夢」があることは、逆に言えば新たな出会いを得るために必要な一種のパスポートなのかもしれない。

 

P.S.エイトレントさんがセグウェイの体験試乗ブースを出してたので初めてセグウェイ乗りました。バイク×スノボみたいで楽しい。