実は「要件定義」でこそ使える「ビジネスモデルキャンバス」 / by Yuki Takai

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前回、要件定義は「現状(As-Is)」と「理想(To-Be)」とのギャップ(課題)を明らかにして、その課題を解決するために満たす必要のある条件=「要件」を定める、っていう構造を理解すると捗るよね、ということを書いたので、今回はWebサイトだけでなくサービス領域にも比較的適用できそうな具体的手法をひとつ紹介します。

 

ビジネスモデルキャンバスは情報整理に使える

それがタイトル通り「ビジネスモデルキャンバス」を使う方法。

ここ10年ほどですっかりおなじみの(むしろもはや古めいた感すらある)フレームワークですが、改めてざっくり説明すると、「ビジネスモデルを9つの要素に分類し、各要素間の相互関係を1枚のキャンバスに示したもの」で、新規事業開発や既存事業改善でよく使われるイメージがあります。

ただ、ビジネスモデルキャンバスの9要素は他のフレームワークと比べてもかなり網羅的・俯瞰的である分、思考も抽象的になりやすく、白紙のビジネスモデルキャンバスから具体的な事業アイデアを詰めるのは、実は結構難しい。

一方で、ビジネスモデルキャンバスに限らず「〇〇キャンバス」と名の付くフレームワークの特長は、なんといっても複雑な要素間の関係性を網羅的に1枚の図で可視化・把握できること。つまり、同じく様々な意図や課題が複雑に絡み合う「要件」を解きほぐして情報整理するのに使えるんじゃないかというわけです。

※実際に、以前担当した「AOI FORUM」立ち上げのプロジェクトでは、具体的な実行内容を決める要件定義でビジネスモデルキャンバスを活用しました。

とはいえ、ビジネスモデルキャンバスにも弱点があって、それはある瞬間を切り取ったスナップショットでしかない、つまり「現状(As-Is)」から「理想(To-Be)」への変化は1枚で描けない、というところ。

だったら、「現状(As-Is)」と「理想(To-Be)」両方のビジネスモデルキャンバスを描いて、その変化を実現することを「目的」として定義すればいい。

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ビジネスモデルキャンバスに「BACCM™」を組み合わせる

これが大枠ではあるものの、もうひとつ別のフレームワークを組み合わせると、ここからさらに具体的な「課題」を洗い出して、各種「要件」まで落とし込みやすくなります。

それが「ビジネスアナリシス・コア・コンセプト・モデル™(BACCM™:Business Analysis CoreConcept Model™)」です。

長くなっちゃうのでここもざっくり説明すると、BACCMは、6つの「コア・コンセプト」で構成されるビジネスアナリシスに関するコンセプトのフレームワークで、実はそれが以下のようにビジネスモデルキャンバスの9要素と(ある程度)対応しています。

BACCMの6個のコア・コンセプト

BACCMの6個のコア・コンセプト

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ビジネス・モデル・キャンバスの9つの要素とコア・コンセプトとの関係

具体的には、「現状(As-Is)」と「理想(To-Be)」を描いた2枚のビジネスモデルキャンバスを突合しながら、BACCMを1つずつ言語化していく。

①ステークホルダー

  • 【概要】チェンジ、ニーズ、ソリューションと関係を持つ個人またはグループ

  • 【BMC対応箇所】顧客セグメント/チャネル/顧客との関係/パートナー

  • 【考える視点】本当の顧客は誰か?その仕事で誰が喜ぶのか?

②ニーズ

  • 【概要】対処するべき問題または機会(ニーズがステークホルダーの行動意欲を駆り立ててチェンジを引き起こすこともあれば、チェンジがニーズを生み出すこともある)

  • 【BMC対応箇所】顧客セグメント

  • 【考える視点】その顧客の真のニーズは何か?何を満たすと顧客はお金を払ってくれるのか?

③価値

  • 【概要】あるコンテキストにおける、ステークホルダーに対する値打ち、重要性、有用性

  • 【BMC対応箇所】価値提案/収益の流れ/コスト構造

  • 【考える視点】顧客に提供できる価値は何か?プロジェクト結果の具体的な目標(売上、利益など)は何か?

④ソリューション

  • 【概要】あるコンテキストにおいて、一つ以上のニーズを満たす具体的な方法

  • 【BMC対応箇所】価値提案/リソース/主要活動

  • 【考える視点】何を通じて価値が提供できるのか?

⑤コンテキスト

  • 【概要】チェンジに影響を及ぼし、チェンジから影響を受ける状況

  • 【BMC対応箇所】※「As-Is」と「To-Be」の差分

  • 【考える視点】そのチェンジが影響を及ぼす範囲は?(社内、社外、国内、海外 etc.)

⑥チェンジ

  • 【概要】ニーズに対応して変える行為、エンタープライズのパフォーマンスを改善するためのもの

  • 【BMC対応箇所】※「As-Is」と「To-Be」の差分

  • 【考える視点】ステークホルダーはそのソリューションを通じて何を変えるのか?

 

こうしてBACCMが定義できたら、「現状(As-Is)」と「理想(To-Be)」を描いた2枚のビジネスモデルキャンバスを突き合わせて、「理想(To-Be)」の「①ステークホルダー」に「②ニーズ」と「③価値」を提供できていない阻害要因を「課題」として位置づけることができるようになる。

課題が明確になれば、あとはそれに向けた解決策を考えるだけ。

考え得る限りのソリューションを洗い出して、「本当に課題の解決になっているか?」「現実的に取り得る手段か?」という視点で精査&優先順位付けを行っていけば、今後のロードマップを描くことができるし、その中でこのプロジェクトの中で実行するべきソリューションを取り出し、各種要件に切り分けて精緻化していけば、要件定義となる。

 

「プロジェクト・ミッション」を掲げよう

プロジェクトマネージャーに求められる最も大事な役割のひとつに、メンバーやステークホルダーが逸れたり迷ったりしないように、ブレないプロジェクトの意義を示し続ける、というのがあると思う。

6つのBACCMが言語化できたら、それをつなぎ合わせてひと連なりの文章に編み上げることで、そういう「プロジェクト・ミッション」とでも呼べるような旗印をつくることもできる。こんな感じ。

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Amazonが本だけでなく日用品も売るようになった変化を例に取ると、

「アマゾンで本を購入していた顧客」には、「本だけでなく日用品もWebサイトから購入したい」というニーズがあり、「本以外の物も発注後2日以内に届くことが嬉しい」と感じるため、「ECサイトで日用品まで販売する」というソリューションを「Amazon.com」に導入することで、「利益と顧客のロイヤリティーを向上させる」。

と定義できるだろうし、あるコーポレートサイトリニューアルでは、

顧客となる「社内外に変革を起こしたいが、何をすればいいか分からない企業」には、「そのために何をすべきなのか、それにどんな価値があるのかを知りたい」というニーズがあり、「様々なアプローチやノウハウ」に価値を感じるため、「実際の事例とそのプロセスを言語化して発信する」というソリューションを「コーポレートサイトをハブとするマーケティング活動」に導入することで、「より広い顧客に対して価値創造のプロジェクトを創出する」。

と言えるかも知れない。

 

あくまで自己解釈に基づく我流ですが、「ケースバイケース」の具体手法のひとつとして参考になれば嬉しいです。