物語が欲しくなるとき / by Yuki Takai

本でも映画でも漫画でもアニメでも、無性にたくさんの物語を摂取したくなる時期というのが年に何度かあって、ろくに中身も見ずに本屋で無造作に5冊くらい文庫本を買ってきたり、ふらっとレイトショーを観に行ったりしたくなる。

何度もそういう時期を迎えるうちになんとなく分かってきたのは、それが訪れるのはどうやらあんまり調子が良くないときだということ。

戦争のような祭りのような忙しさの中にいる間は、余裕のないせいか、はたまたアドレナリンが出てるせいか、そんな気分になることはなくて、どちらかというと、うまくいかない仕事に対しての気の進まなさや、漠然としたこの先どうしようかという不安とふと目が合ってしまったときに物語が欲しくなる。単なるささやかな逃避なのかもしれないし、何か変化のきっかけや刺激を求めてるからなのかもしれないけど。

もしこれが、イマジネーションや面白いことを考える活力のストックが枯渇してきているサインなんだとしたら、直接的な特効薬になりそうなテクノロジーやクリエイティブ系の情報を摂るのが良さそうな気がするけど、直感に背いて雑誌やそういう本を買ってしまうと、不思議とだいたいうまく消化できずに枕元に積まれることになる。

甘いものをやけ食いするように、新しい素材が鍋の中のスープと化学反応を起こしてくれるのを期待するように、とにかくインプットを増やして樽の中の澱を押し出すように、頭に物語を放り込んでいく。

大概はそれで都合よく気分が切り替わるような面白いアイデアや新しい興味が見つかるなんてことはなくて、そうやってやり過ごしていくうちにまた忙しさに飲まれていって、なんとかこなしていくうちにいつの間にか調子を取り戻していく、という繰り返し。

でもいつか忘れた頃、元の作品もシーンも分からなくなった頃に、ふと思い浮かぶ一小節やそのときの情感がどこかで何かに生きるかもしれなくて、よく分からないけどきっとそういうことなんだろうと思う。

押し出された澱として書いた829文字。